写真日記
今一度、HIV・AIDSについて
1984年、タイで初めてのHIV感染者が報告されて今年で25年。
1999年バーンロムサイが開園した頃「エイズは死病」と言われており、実際HIVに感染したほとんどの人たちは数年でエイズを発症、打つ手もなく亡くなってゆくのが現状でした。開園当初母子感染した子どもたちは2歳で孤児になり、その平均寿命は5歳と言われていましたし、医療関係者の方たちから「子どもたちがエイズを発症して亡くなったとしても、どうしようもない事なのですからあなたは責任を感じる必要はありませんよ。」と慰められたこともありました。そして実際バーンロムサイの子どもたちも次々にエイズを発症、開園から3年間で10人の子どもたちが亡くなってしまいました。しかし2002年から始めた抗HIV療法のお陰で現在子どもたちは命の心配をすることなく暮らしております。
この10年、子どもたちと共に生活を送るなかで、いろいろな問題に直面してきましたが、今新たな大きな問題に直面しています。HIVに母子感染した子どもたちの成長期における知能の発達に関する問題です。
HIVウイルスが影響して身体的な成長は確実に感染していない子どもたちに比べ遅れています。これは母親の胎内にいた時の栄養状態や、生まれた後の生活環境にその原因もあるかもしれませんが、確実にウイルスの影響だと思われると医療関係者の方からも聞いています。そして今、ウイルスが精神的な発達と情緒面の形成にも障害を与えているのではないかと強く思い始めました。
それは年長の子どもたちが中学、高校へと進学し、自分たちで物事を考えその場で判断しなくてはならない状況が増えた中、物事が理解出来ていない、また判断が下せない事がこんなに多いのかと私たちが気づき始め、愕然としているのです。子どもたちがどのような親の下に生まれたのか、その後過ごした幼少期、どのような環境の中で暮らしたのか、虐待は、ネグレクトは、、、色々な要因があると思われますが、7年間毎日12時間おきに服用している薬とHIVウイルスの影響が大きいのではないかと私は考えてしまいます。
新しい病気であるがために臨床例も皆無。現在バーンロムサイにいる感染児は30名。そのうち物事を理解することが難しい子、物忘れが異常に多い子、発達障害を抱えた子、学習障害と思われる子、持久力が極端に少ない子、情緒不安定な子、平均以下のIQ、、、これらの問題を抱えた子どもが全体の3分の1以上もいるとしたら、この確率は健常児では考えられない数字ではないでしょうか?
HIVウイルスはまだ発見されてから30年に満たない事もありますし、開発された薬もまだ新しく成長期にある子どもたちにどのような副作用が起きうるのかの臨床例も少なく、また大人になった母子感染者が少ないと言った事もあり、HIV母子感染児にウイルスがどのような影響をもたらしているのか、問題のどれが抗HIV薬の副作用なのかわかりません。
開設当初から「子どもたち全員、手に職をつけ、社会に出て自立した生活を送って欲しい」と願っているこの事が現実問題としてどこまで可能なのか?
何人の子どもが自立しバーンロムサイを巣立って行く事が出来るのか?
どれだけの子どもたちが社会に適応出来るのか?
子どもたちが成長するに伴い現れてくるさまざまな問題を思うと、未知の領域である「HIV母子感染児が成長し大人になる事」に対しての不安は募るばかりです。現在タイでは抗HIV薬のお陰で母子感染して産まれてくる子どもの数は喜ばしい事に減ってきました。と言う事はバーンロムサイの子どもたちのようなHIV母子感染孤児は今後は現れないと言えるのかと思います。
HIVに感染している母親も薬を服用していればエイズを発症することもなく生き続けることが出来ますし、母子感染させる心配もほとんど無く子どもを持てるようになって来たのも事実。ですから母子感染児に対するウイルスや薬の影響を研究したいと思う研究者がいないのかもしれません。何らかの問題や障害を抱えている子どもたちがこれだけ多いとすると、「子どもたち全員、手に職をつけ、社会に出て自立した生活を送って欲しい」との願いがどこまでかなうのか、、、、不安が募ります。
写真タイトル「テラスから見た空 3景」
名取 美和|2009/07/31 (金)
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