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写真日記


新年、明けましておめでとうございます。

今年はバーンロムサイの子どもたちと共に迎える11回目の新年となりました。30人も子どもがいると日々色々な事があります。でもまずはみんな元気で2010年を迎える事ができました。

どの様な状況の中で産まれた子どもたちにも「未来」があります。そしてこれからの世界の「未来」を担って行くのもこの子どもたちです。どの様な「未来」であって欲しいのかと考えた時、一人一人が「心地よい」と感じられる社会であれば世界は「平和で心地よい」ものになるのではないでしょうか。日々「幸せ」と感じられる瞬間があり、自分の生きている社会が「心地よい」と感じるにはどのように生きてゆけば良いのでしょうか。

何も特別な事をしなくても「普通の生活」の中に「幸せ」を感じとる術を小さな時から身に付ければ良いのだと思います。そして「形ある物」は共に分かち合い「形のない物」はお互いを認め合い、理解する努力が当たり前に行われればそれで良いのです。この10年タイ・チェンマイの田舎でバーンロムサイの子どもたちと暮らし気づかされました。

雨の午後、屋根から落ちる水滴を見て「綺麗だね、、、」少年ピチットの一言です。カタツムリがゆっくりと動く姿に見とれていたのも、食べたスイカの種を土に埋めていたのもピチット。山の中で産まれ育った彼は日々の生活の中でおもしろい事を見つけるのが上手でした。電気もない山の中で自然に囲まれ家族と小さな村で暮らしていたのでしょう。ピチットはお母さんと一緒に水を汲みに行き、その途中で見た動物や昆虫、植物に見とれ、雨が降れば植物が育つと喜び、暗いうちから起き、村人と働いている親を見、仕事が終わったら火を囲み、今日収穫したものを家族で食べ、暗くなったらみんな一緒に寝る、、、、勿論今の私たちにそのような生活をしろと言われても出来るものではありません。でもエイズを発症し6歳で亡くなった少数民族モン族の少年ピチットから学べることは沢山あると思います。

いつの頃からか、もっと勉強し、もっと良い学校に入り、もっと良い会社に、もっとお金を、もっと美しく、もっと能率よく、向上、成功、上昇、、、もっと、もっと、、、日本人はフル回転で働き戦後60年で大変な経済成長を遂げてきました。でもこの「もっと」でどれだけの人たちが「幸せ」になれたのでしょう?確かに日本は豊かになりました。でも失った物の大きさに気付きもっと人間らしく暮らしたいと願う人たちの声を昨年多く耳にしました。人間らしく生きるとは一体どのような暮らしなのでしょう。

今ホームで生き生きと輝いているヌン、ナット、スラチャイ、アーム、ミルク。彼らはそれぞれが得意な事好きな事を学び始めました。ヌンは自動車の修理工、ナットはいつの日か日本への留学を夢見て日本語を学んでいます、スラチャイは古典舞踊を学びヒップホップが大好き、本人も「アーチストになる!」と言っています。そしてアームも古典舞踊を勉強していますがこのところ現実的に考えはじめ「経理の勉強をしようかな、、、」と言い始めました。「踊る経理士!」楽しそうではないですか!ミルクは「経理の勉強がしたい」とがんばり学校から希望校への推薦がもらえました!みんな地に足をつけ一歩一歩楽しく生きてくれるでしょう。勿論努力しなくてはならない事、耐えなくてはならない事もありますが、無理せず今日一日を気持ち良く過ごす術をタイ人は知っています。政治的、宗教的また教育や家族のあり方など日本と違いますが「現状を維持できればそれでよし」と考えるタイ人と「進歩と向上あるのみ」と言う社会風潮の中、親からも学校でもまた大人になっては会社でも叱咤激励され続けて来た日本人。人間としてどちらが幸せなのでしょう。

将来を担う子どもたちが親から愛され大切にされていると感じ、日々の生活の中に幸せを見つけられる術を身に付け「気持ちの良い」子ども時代を満喫して欲しい、それがすべての出発点だと私は思います。バーンロムサイの子どもたちにもいろいろな悩みはあります。でも一人一人が持っている小さな能力や得意な事を仕事としバーンロムサイを巣立ち、社会の一員として「心地よく」生きてくれたらそれで良いのです。バーンロムサイの子どもたちは過酷な状況の中で産まれては来ましたが、有難いことに今ここで自然に恵まれた環境で暮らし遊び、沢山の兄弟姉妹に揉まれて育つので「分かち合う」そして「助け合う」事を必然的に身に付けてきました。そして私たち親がそれぞれの子どもの身の丈に合った教育を受けさせたいと考え、現在一人一人の能力を見極めようと理想に向けて努力中です。

今、世界がこのような状況に陥っているのは親たちが将来を担うはずの子どもたちに「人が心地よいと感じる社会を作ろう」ではなく「もっと、もっと」と教育してしまった結果なのでしょう。人間の欲望には限りが無いようですが、人間の叡智にも限りはありません。

何かを変えると言う事は難しい事です。日本の「政権交代」にしてもこれで明日からすぐに世の中が良くなるわけでも変わるわけでもありませんが、多くの人たちが何かおかしいと感じ自分をそして社会を変えたいと願っていると言う事だと思います。これを機に日本人の「幸せ」と感じる「物差し」もきっと変わるでしょう!草、木、動物、昆虫、人間、、、全ての生きとし生けるものが気持ちの良い一生を送れる事が出来たらどんなに素晴らしい地球になる事でしょうか!今こそ人間の叡智をその為に思いっきり使うべきです。

1999年11月の開園から10年、
皆様からのご支援ご協力があったからこそ、バーンロムサイは今日まで継続する事できました。いろいろ大変な時期もありましたが、やっとこの頃この活動が何かの役に立っていると実感しはじめました。バーンロムサイの支援者の皆様に心より感謝を申し上げ、新年のご挨拶とさせていただきます。

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名取 美和|2010/01/01 (金)

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