写真日記
「家族」であること
先日、タイの中部にあるHIV/AIDSに感染した人たちのための施設を見学してきました。一つはロッブリー県にある「バーン・ゲルダ」という施設、そして「ワット・プラバートナンプー」というお寺、そして最後にバンコクにある「サイアム・ケア」という団体の事務所を訪ねました。このうち「バーン・ゲルダ」は、バーンロムサイと似ている点が多く、大変印象深い訪問となりました。
ロッブリーの街から60km程離れた広い土地にあるバーン・ゲルダは2000年にドイツ人のカールさんと、彼のタイ人の奥さんによって設立されました。バーンロムサイもその一年前の1999年に設立、そしてほぼ同時期から抗HIV療法を取り入れることになります。現在、バーン・ゲルダには85名のHIVに感染した子どもたちがいますが、これまでに40名の子どもたちが命を落としていったそうです。最近では2年前、エイズを発症し重症となるまで放置された後にバーン・ゲルダに来たこどもが、抗HIV療法が効果を奏する前に亡くなってしまったそうですが、今いる子どもたちは元気に毎日を過ごしています。
バーン・ゲルダの特色は、「タイで唯一の、ファミリースタイルを取ったHIV孤児のための施設で、彼らに抗HIV療法を与え、彼らが他の人にとって役に立つ人となることを目指している」という点です。具体的には、HIVに感染した大人と、同じくHIVに感染した孤児たちが一緒に"家族"となって生活しています。8つのコテージが有り、実際の夫婦が2組、他のコテージは2名の大人の女性が、10〜12名の子どもたちと一緒に生活をしています。ほか、施設の中には大きな食堂と、ここに住む大人達のための作業場としての縫製所、木工所があり、縫製所で作ったクッションや衣類などを契約先の販売業者に売っています。
子どもたちは隣接した学校--タイ王室による「ロイヤル・プロジェクト」33番目の事業として立ち上げられた教育施設(これは大変素晴らしいプロジェクトで、このことについてはまた別の機会に書いてみたいと思っています)--に通っており、また、「音楽や踊りなど、子どもたちが勉強以外のことに触れる機会を大切にする」というカールさんの方針により、ボランティアの人の指導による木琴や鉄琴の演奏に力を入れています。このこともバーンロムサイの方針(「自分の得意なものを見つけ、それにより自信を持って生きてゆくこと」)と似ている点と思いますが、バーン・ゲルダではさらに子どもたちの演奏と唄による、HIV感染者と健常者の共生をテーマにしたオペラをバンコクやタイの東北部で上演し、啓発活動を行なってきたそうです。
また、目下バーンロムサイでも子どもたちの将来の自立のために、農業プロジェクトを始めようとしていますが、バーン・ゲルダも同じく、差別や偏見により職業の選択肢が少ない、そして病気や薬の副作用ために軽い障害を持つ子どものために農業プロジェクトを展開しようと土地を購入、近いうちにタイの大学のオーガニック農法に詳しい指導者を招いてプロジェクトを開始するとのこと。
このように、多くの点でバーンロムサイと近い活動をしているバーン・ゲルダですが、私から見た最大の共通点は何と言っても「子どもたちがとても明るく、表情が豊かなこと」。決して多くの施設を訪ねたわけではありませんが、これまで見てきたHIVに感染した子どもたちのための孤児院と、バーンロムサイ、そしてバーン・ゲルダが決定的に違う点は、やはり「家族」という意識を持って生活していることと思います。このことがどれだけ子どもたちの成長に大きく影響を与えるか、バーン・ゲルダを訪問して改めて実感しました。それは、カールさんにバーンロムサイのことを話すと、、、例えば「6歳から18歳のこどもが30人、一緒に生活をしています」と言うと、すかさず「なるほど、難しい年代の子どもたちがいて大変でしょう?」という返事が返ってくることからもよく解ります。
バーンロムサイでは、子どもたち、そして日本人スタッフ、タイ人スタッフも含め一緒に生活する全員が「大きな家族」であるということをいつも意識しています。また、例えば現在、ゴイとポンがチェンライのフォスター・ファミリーのもとで下宿生活を送っているように、「家族の中で生活すること」の意義を、身をもって感じてもらう機会を大切にしています。人が生きていくにあたって、同じ血をひく人がいることはとても心強いことと思いますが、「血縁」だけではなく、人と人の「結びつき」を実感する事。それにより自分も他人も大切に出来る人になるのだろう、、、と思います。これからも皆さんにそのような方針を理解していただき、応援していただけたら、、、、と、改めて思う機会となりました。
また次回に、他の訪問先についても書いてみたいと思います。
佐藤くみ|2010/09/08 (水)
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