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ワット・プラバート・ナンプーを訪ねる


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前回に引き続き、タイ中部のHIV/ AIDSに感染した人達のための施設への訪問について書きます。
ロッブリーにある「ワット・プラバート・ナンプー」、通称「プブナブ寺」は、エイズ患者のホスピスとしてタイ人なら誰でも知っている有名なお寺です。1992年に、あるお坊さんによって設立されたこのお寺は、当時不治の病であったエイズを患い、末期患者となった人々がここで最期を迎えるためにやってきました。タイでエイズが猛威をふるった1990年代には子どもから大人まで、多くのエイズ患者がここに来たため、入所を待つ人達が一万人以上もいたとのこと。その後抗HIV療法(現在バーンロムサイの子どもたちが受けている治療と同じです。)が認可され、タイ政府の努力もあり普及し始め、今はその頃に比べるとその数は減ったというものの、やはりここで死を待つ人達も決して少なくないとのこと。そして私はここでエイズ末期の患者さんと始めてお会いすることになりました。


ロッブリーの街から車で約20分ほど走った郊外の山のふもとに寺は有りました。大きなゲートをくぐり、事務所棟へ行き訪問のことを伝えると、マックスさんというタイ人男性が施設の中を案内してくれました。


ゲートからすぐの建物は、エイズで亡くなった方のミイラが展示されており、その奥には火葬のための焼却炉が有りました。現在はこの焼却炉は使われていないけれども、エイズという病気によって多くの人が命を失っていった時代の事を後世に伝えるために、ミイラの展示と焼却炉を残しているとのこと。


また、施設の中央にあるコンビニ(日本と同様の、きれいなコンビニの建物です)を過ぎて左手の奥の建物に行くと、エイズに罹った方達の体の一部や内蔵のホルマリン漬けの標本が展示してあり、今後の研究のためにこのような標本を保存、展示しているとの説明を受けました。


そして敷地の中心に末期患者のための病棟が有り、現在は約40人の人達がここで対処療法やマッサージを受け、最期の時を迎える準備をされているとのこと。私も内部に入って患者さん達とご挨拶をしたりしました。比較的元気な患者さんは、早めの昼食をベッドの上で食べていましたが、中には痩せ衰えておむつ一枚のみをつけ、ただ横たわっている人もいました。(ちなみにこの寺にいる患者さんはすべて大人です。)


さらに敷地の奥に有る4階建ての立派な建物は、スタッフの方の住居と、軽症の患者さん達のための病棟となっていました。病棟は普通の病院と同じような作りになっていて、ちょうど私が訪ねた時はバンコクからお医者さんが来ており、ここの人達がこれ以上エイズを進行させないための療法を行なっているとのことでした。


他、ここには回復した人達が生活するための小さなコテージが30棟ほど有り、ここで生活する人は、マックスさんのように訪問者に施設を案内したり(彼も感染者と後程知りました)、訪れた学生の団体などにエイズ予防をテーマにした劇を上演することにより、賃金を得ているそうです(ただし住居費、食費などの生活費や、薬代はこの施設が無償で提供しています)。


幸いにも、ここで長期のボランティアとして終末期ケアを専門に活動している日本人の女性、鈴木さんに色々とお話を聞く事が出来、長い時間をいただいてプブナム寺についてたくさんの事を教えていただきました。まず、ここの末期病棟の患者さん達は、すでにエイズを発症していながらもこれまで、色々な事情により抗HIV療法を受ける事が出来ず(あるいは受けなかったため)、多くがすでに抗HIV療法により回復する見込みが無いとされる人達であること。彼らは、自分より少しでも症状の重い人達を介護しながら、お互いに助け合って毎日を送っていること、それは弱者を切り捨てることなく共に生きる姿であり、鈴木さんはここで、日本では感じる事の出来ない人と人のつながりを見いだし、元気をもらう事が出来ると話してくれました。


またプブナブ寺では、回復した人達が生活する施設をロッブリー郊外にも設立しており、彼らの自立を支援しているけれども、3つの理由から彼らが自立するのは大変難しく、結局再び症状が悪化してしまい戻ってくる人達が多いとの事。その理由のひとつは、HIV/AIDSに対しての差別と偏見。二つ目は、毎日服用する薬の副作用のせいか、実際に彼らは疲れやすい体質で根気が続かない人が多いこと。特に大人になってから抗HIV療法を始めた人達にとって、薬による副作用は大きく、飲み続けることを止めてしまう人もいるとのこと。三つ目は、この寺のような施設に居れば働かなくとも生きていけるという、感染者側の「依存」の問題。これらの問題は個々に切り離せる問題ではなく微妙に関連しあっているとのことでしたが、バーンロムサイの子どもたちの将来にも大きく関わりのある問題だけに、大変複雑な気持ちで鈴木さんのお話を聞きました。


数時間の訪問なので多くを実感したとは言い切れないですが、プブナム寺を訪れてたくさんのことについて考えさせられました。まず、抗HIV療法が広く普及している中、このように末期の患者さんが多くいる(この寺に入所を希望する人は、未だ何千人もいるとのこと)タイの社会のこと。同時に、先進国の中で唯一感染者の数が増加しており、HIVに感染したことが解れば孤独に病気と向かい合わざるをえない日本の社会のこと。差別と偏見。そして感染者の人達の自立の難しさのことなど。改めてHIV/AIDSが社会と深くむすびついた病気であることを知り、バーンロムサイの子どもたちをはじめHIVに感染した子どもたちの将来のことについて考える機会となりました。

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佐藤くみ|2010/09/15 (水)

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