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3・11 あれから2年

2011年3月11日。

裁判所詰めの記者だった私は、あの日、霞ヶ関の記者クラブの中にいて、原稿を書いたり、取材の下調べをしたり、パソコンと向き合いながら、いつもと変わらない午後を過ごしていました。記者クラブには7台のテレビがあって、その日はNHKの国会中継の音が退屈なラジオのように流れていたのを、今も鮮明に覚えています。

14時46分。突然の緊急地震速報。国会中継を遮るようにして、緊急音が鳴り響きました。震源地は東北?画面を確認する間もなく記者クラブの中も激しく揺れ始め、巨大な本棚が倒れそうになるのを、必死になって押さえました。上司は「危ないから離れろ!」と叫び、記者クラブのあちこちで物が崩れ、悲鳴のような声があがっていました。

あの日、震源地から離れた東京でもこれだけ激しく揺れたのです。東北にどれだけの被害が出たのか、想像もつきませんでした。とにかく今すぐに現地に行かなくては、、、。パソコンにカメラ、温かいコート、ヘルメット、懐中電灯とわずかな着替え。すぐに用意出来た物資はわずか。途中寄ったコンビニからもモノが消え、買えたのはお水とお菓子だけでした。

帰宅難民で溢れる東京の街を抜け、栃木に入った辺りからは停電で街が真っ暗になっていました。ハイヤーの運転手が夜通し運転を続け、福島に入った頃に、福島原発の1号機が水素爆発。爆発で建家が吹き飛んだというニュースを、先輩と2人、言葉も無く見つめるしかありませんでした。

私が最初に取材に入ったのは、宮城県の南三陸町でした。車を降り、海岸線まで歩いて行ったとき、その光景に言葉を失いました。街が1つ、街がそのまま1つ無くなっていたのです。目の前に広がる瓦礫の山、山、山。まだ自衛隊の支援も不十分で、町民は自らの手で家族を捜し、遺体が見つかるとビニールシートに包んで運んでいました。海水で濡れ、重くなったその瓦礫の上を歩いて、歩いて、、、私はこの場所から何を伝えたらいいのかと呆然としました。

最初に声をかけた男性は、瓦礫の中、母親を捜していました。「どうされたんですか?」と声をかけると「母ちゃんをずっと探してるんだけど見つからないんだ。もうダメだって分かってるんだけど、見つけてやりたくて…」と言うと下を向き、堪えていたものが溢れるように涙がボロボロとこぼれ出しました。この寒さの中で、たった1人。たった1人で男性はお母さんを探し続けていました。

被害直後の現場を私はとても「現実」とは思えませんでした。でもこの男性の後ろ姿や、崩壊した我が家を呆然と眺める女性、高台から被害の状況を見て足が震えだしたおばあちゃんの背中が、この瓦礫の山の中に、人々の暮らしがあり、家族があり、命が在ることを教えてくれました。テレビに映し出される「瓦礫」が、ただの「瓦礫」にしか見えないことが、もどかしかった。

2011年3月11日に起きた東日本大震災。亡くなった方、未だに行方が分からない方の総数は1万8,574人に上ります。

あの日から、間もなく2年。わたしはあのとき以来「命を想う」「生きる」ことに、真っすぐになりました。「生きる事をまっとうしたい」という想いが、チェンマイに移住するきっかけにもなりました。

福島の原発事故の余波は未だに収束せず、福島をはじめ、岩手県、宮城県では未だに多くの方々が仮設住宅での生活を余儀なくされています。一方で悲しい事に、タイでは原発を新設し、2030年までに電力供給の10%を原子力で賄う計画が進んでいます。

今の日本が震災の教訓をどう生かしていけるのか。それは私たち1人1人の言葉や行動にかかっているのだと思います。命の尊さを言葉にするのはとても難しいですが、いつかあの日の出来事を、タイに暮らす人々、バーンロムサイの子ども達にもしっかりと伝えていきたい。あの日、私たちが何を学んだのか。何を失い、何が残ったのかー。
3月11日。午後14時46分。
今年も、どうか、命を想う、祈りの日になりますように。

谷岡 碧 | 2013/03/05(火)

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