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あの日からもうすぐ6年

今から7年前。毎年バーンロムサイの紹介用映像を制作しているチームで、1本の映像を制作しました。映像のテーマは「Think once again (もう一度考えよう)」。2002年から「抗HIV薬」の服用をはじめ、子ども達の命が守られるようになって4年。HIV/AIDSの問題がどこか「遠くに」感じられるようになっていた時期でした。「だからこそ、今もう一度HIV/AIDSのことを考えよう」。代表の名取美和の発案で25分ほどの映像を制作することになりました。

HIVの感染を理由にバーンロムサイの子ども達が退学を余儀なくされた地元のナンプレー村小学校。2006年当時、実はHIVに感染した疑いのある子どもが25人もいることが発覚しました。バーンロムサイは、感染の疑いがある子ども達への支援の開始を決め、子ども達の自宅への家庭訪問を行っていました。私たちは、バーンロムサイの家庭訪問に同行し、ご家族の許可を得て取材をさせて頂きました。HIVをきっかけに家族はバラバラとなり、貧困を理由に適切な治療を受ける事も出来ない。取材を通して、厳しい現状を目の当たりにすることになりました。当時、「抗HIV薬」による治療を受けることが出来る人々は、タイにいるHIV感染者の約2割程度と言われていたのです。

またバーンロムサイの歴史を振り返るために、2000年に7歳4ヶ月と、7歳7ヶ月で亡くなった双子のオイちゃんとアイちゃんの叔母にも取材をお願いしました。叔母のアンパイさんはアイちゃんを看取った後、自身もHIV感染と闘いながら、アイちゃん、オイちゃんの地元の村で生活をしていました。アンパイさんは2006年に6年ぶりにホームを訪問。アイちゃん、オイちゃんとの思い出や、貧しさから彼女達を育てられなかった後悔、そして自分自身のHIV感染についても包み隠さずにお話ししてくれました。そして涙ながらに最後にこう話してくれました。「アイとオイには、生まれ変わってわたしの子どもになってほしい。」

アイちゃんとオイちゃん

私がはじめてホームを訪問したのは2004年。アイちゃんとオイちゃんに会ったことはありません。彼女達がどの様な人生を生きたのか。彼女達の人生を、少しでも映像で伝えたい。そう考えて相談したのが、ジャーナリストの長井健司さんでした。長井さんは2000年にバーンロムサイを取材。バーンロムサイの子ども達と真摯に向き合った映像ジャーナリストでした。乃木坂にある長井さんの事務所を訪問し、制作を進めていた「Think once again」の映像主旨をお話しすると、長井さんは「全て自由に使って下さい」と言って、40時間にも及ぶ取材テープを快く貸し出してくださいました。

テープに収められていたのはアイちゃん、オイちゃんの元気な姿。少し遠くから子ども達を静かに優しく見つめる長井さんの映像は「Think once again」の大切なチャプターの1つとして使わせて頂くことになりました。2006年の年末に完成した映像はその年の展覧会で放映され、長井健司さんも会場に足を運んで映像を見て下さいました。
「みんな大きくなったね。すごく感動しました」子ども達の成長した姿を見て、嬉しそうに微笑んでいました。

翌年の秋。2007年9月27日。代表の名取美和からの泣きながらの国際電話を今も鮮明に覚えています。「長井さんがミャンマーで撃たれた!」

ミャンマーの民主化デモを取材中、長井さんは政府軍に至近距離から銃撃され、カメラを握りしめたまま亡くなりました。享年50歳。長井さんが故意に撃たれた映像は国際的にも大きく報道され、連日盛んに長井さんのニュースが流れました。私はただ信じられない想いでした。会社のデスクには、お互い忙しくてなかなか返せずにいた40時間のテープが残されたままでした。

あの日から6年。もうすぐ長井健司さんの命日がやってきます。昨年私はミャンマーを訪ね、長井健司さんが撃たれたスレー・パコダ近くのあの現場で黙祷をしました。民主化が進み、大きく変化したミャンマー。人々が忙しそうに行き交い、排気ガスの黒煙があふれる交差点で、「バーンロムサイの子ども達が元気なこと、これからやりたいこと」など心の中で伝えました。

長井さんは生前「誰も行かないところに自分が行かなくては」と話していました。私はジャーナリストではないので長井さんの遺志をそのまま引き続ことは出来ませんが、同じ映像制作者として、バーンロムサイの子ども達を優しく見つめて下さった長井さんの想いを少しでも引き継げたらと思っています。

長井さんが撮影したオイちゃんの手

谷岡功一 | 2013/09/15(日)

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